永く咲く華の如く



 

 椿邸の庭には常に椿が咲いている。
 秋は春は並木の桜と並び、冬は雪霜の最中乾いた空に凛と紅を差し、春は萌芽の只中で見衰えぬ威厳の花を咲かせる。そして夏、深緑の木々に囲まれながら、彼らは静かに咲いている。常咲きの椿、故に常に落ち、しかしまた開くその八重咲きは栄枯盛衰、激流の時代を確固として行く組そのものを象徴するとも人の言う。
「あの花は如何していつも咲いているのかしら」
 女中の一人がそういったことがあった。奇しくも丁度これほどの夏の頃であった。庭師は剪定の手を止め、背筋を伸ばした。陰萌黄の葉の合間から渡り廊下に立つ涙目の女の姿が見えた。
「当然でしょ。椿の館の常咲き椿よ」
 隣を歩く女中が言う。
「ええ、それは知っているけれど」
 でも、如何して咲き続けられるのでしょう。落ちるべき時に落ちぬ。咲くべき時を外れて咲く。不思議に思いませんでしょうか。
 相方は「知らないわよ」と言って、フウフウと洗濯物を抱えて去った。涙目の女は暫く垣根の椿を眺めていた。庭師はそれを見ていた。


 搬入許可証をダッシュボードに乗せたトラックが永代区の検問に差し掛かり、静かに止まった。
「拝見します」
 助手席の人間が職員証を軽く掲げ、警備員が頷く。
「荒神博ですか」
「ええ」運転手が笑う。「ここだけの話ですがね、研究員って連中は注文が多くて困りますよ」
「聞こえてるぞ」
 助手席の男が缶コーヒーをあおる。
「ご苦労さまです」
 ゲートが開き、トラックが敷地に入る。
「今日は搬出入が多くて困りますね」
「前日準備を徹底しておけってんだ」
 警備員たちは口々に言う。その背後で、運転手の男の顔に張り付いた愛想のいい笑みが剥がれ落ちた。
「入りました。どうぞ」
『ういっす。そのまま目標地点までお願いします。駄目っぽかったら"荷物"降ろして陽動に回ってください。どうぞ』
「了解」
 トラックは駐車場を過ぎ、環境研究所の区画を行く。広く画一的な実験用の畑、広大な草原の広がる中、一定の間隔で道路が交差する。
「碁盤の目だ。まるで京の都だな。呪いみてえな匂いがする」
 運転手は妖怪だった。鼻をスンと啜りながら罅の一つもない単調な舗装路を睨んでいる。
「ここの緑は只一目的のためにある。一途過ぎるから駄目なんだ」
「意味わかんねえよ」
「別に構わん」研究員姿の男は飲み干した缶を片手で潰した。「あんた、如何して館の椿が春夏秋冬咲き続けてるか知ってるか?」
「はあ」
「奴らも組の一員だからさ」
 トラックは速度制限を忠実に守りながら、永代区の中枢を目指している。


 




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